越山満美子 特別インタビュー

本作のメインピアニスト・アレンジャーでもあり、サウンドプロデューサーでもある越山満美子さん。
ファンからだけでなく、多くのミュージシャンからも絶大な支持を誇る彼女に、本作「モナ・リザ」への思い、プロデューサーとしての試行錯誤から今後の取り組みまで、じっくりとお話を伺いました。

取材・文責/田久保友妃
写真/鈴木大輔

 

 

 

  「現場監督」としてメンバー全員の良さを引き出したかった

左…田久保 / 右…越山さん

田久保友妃(以下、田久保) レコーディング、お疲れ様でした!

越山満美子さん(以下、越山) お疲れ様でした!

田久保 ではまず何かひと事お願いします。

越山 これは素晴らしいアルバムになると確信しております!

田久保 ありがとうございます。今回、満美子さんはピアニスト兼サウンドプロデューサーという立場。一番多く現場にも足を運んで頂いて、大変ではなかったかと思いますが……。

越山 最初にお話いただいた時は、「もちろんいいよ~♪」って軽い感じやってんけど、実は私プロデュースでレコーディングに関わるのは初めてで。プロデューサーの仕事って何? と改めて考えて……。

 私が指示した通りに友妃ちゃんが弾くっていうのは何か違うなと思って。それで色々考えた結果、私はまとめ役というか、皆の良さを引き出す「現場監督」に徹しようと。

 その上で、この「モナ・リザ」は友妃ちゃんのリーダーアルバムでありつつ、私、越山満美子のアルバムでもある、と言えるくらいの作品にしたいなと思って、挑みました!

田久保 その思いはずっと伝わってきていましたけど、改めてそう言っていただけるとすごく嬉しいです!

越山 あと、友妃ちゃん自身が、まず楽譜とか、「土台」をしっかり作ってきていたことにびっくりした!

田久保 ありがとうございます! 満美子さんのお陰ですよね~。私もPiano+(※)出身ですから!

※Piano+、越山満美子音楽教室。

越山 出身じゃなくて、今もやで(笑) また発表会出てね(笑)

田久保 はい満美子先生(笑)! 私としては、Piano+で経験したレッスン自体が今回のアルバムの「土台」になったと思っています。作りたい作品を形にするためにはやっぱり「土台」は大事だと。今回は、本当に理想のサウンドを作っていただけて大満足です。

越山 友妃ちゃんは「やりたいこと」がはっきり見えてたからね。そうした「フロント目線の意見」と、伴奏者……ではないけど、「ピアノトリオからの意見」が両方しっかり出て、レコーディングを作っていけたよね。

田久保 今回プレイヤーは5名いて、誰一人「言われた通りだけやる」っていうプレイはなかったですね。

越山 それは何か寂しいもんね。そうじゃなくて皆がベストを尽くして一緒に作るレコーディングにしたいっていう意気込みは、最初の友妃ちゃんの話を聞いた時に十分伝わってたし。

田久保 今回、光岡さんと岩高さんは満美子さんがオファーしてくださったんですけど、そのチョイスについてのお考えを改めて聞かせてください!

越山 まず、お二人ともすごく素晴らしいプレイヤーというのはもちろん。それとレコーディングっていうのはどうしても現場がシビアになるから、何よりも友妃ちゃんがリラックスして弾けそうなお人柄っていうのはあった! 友妃ちゃんは岩高さんは初めてやったよね?

田久保 はい、初めましてでした。

越山 それでも馴染めそうな人を。……やっぱり、お人柄かな(笑)

田久保 皆様、プレイもお人柄も素晴らしかったです。

越山 光岡君は私より若いけど芸歴でいうと先輩やねん。で、いつもニコニコしてて、それが長年ずっと変わらない! 私がセッションとかで悩んだ時には電話で相談に乗って貰ったりもして、その時にかけて貰った言葉でめっちゃ楽になったりして。だからもうずっと感謝してる。

 岩高さんとはマミコネクション(※)を6年以上一緒にやってもらってるんやけど、口数少ないやん?(笑) けど、ポロっと出た言葉に重みがあって。

※越山満美子のリーダーカルテット。越山満美子、稲屋浩(TS)、神田芳郎(B)、岩高淳(Ds)

左…光岡尚紀さん(ベース)鈴木撮影 / 右…岩高淳さん(ドラムス)プロフィール写真より

田久保 よく分かります。光岡さんは明るくてカッコいい。岩高さんは寡黙な男前ってイメージで、それぞれの性格が音にも良く出てますよね。

越山 でしょ~? お二人とも、すっごい信頼できる方やねん。音楽を越えた信頼がある。

田久保 ゲストの髙橋俊男さんについては?

越山 実は、私が「プロになるぞ!」って決心した時に、偶然聴いたジャズピアノが俊男さんやってん。

田久保 え~! いつですか?

越山 16年前! 北新地の英国館で弾くことになって。あまりにも未知の世界やったから、ジャズを勉強しようとあるライブハウスに行って。その時にピアノを弾いてたのが俊男さん。もうイントロから「かっこええ!」って。そっからずっと憧れの人。

田久保 本当に「かっこええ!」ですよね!

越山 ほんと、俊男さんとか竹下(清志)さんのライブは通いつめたなぁ。師匠(安次嶺悟さん)とはまた違った存在でね。

田久保 私も、俊男さんを初めて聴いた時は「これ日本人の音!?」って衝撃を受けました。満美子師匠とはまた違った存在で……。

越山 実を言うと、最初に俊男さんにゲストで2曲弾いて貰うって聞いてビックリしてん! 「ええ~っ……、そんなすごい、大先輩の、憧れの人と同じアルバムでピアノ弾くって、私のメンタルどんなことになってしまうんやろ……」って……。

田久保 実際に2人のピアニストが並んでみたら、良い感じに対照的で。それぞれの個性が光ったと思うんですが。

越山 そやね! またピアニストが2人いることで、友妃ちゃんの良さが、違った角度から引き出せたかな~、と思ってる。

田久保 それってジャズの醍醐味ですよね。共演するプレイヤーによって、同じフロントで同じ曲を演奏してもまた違った音楽になるっていうのは。

越山 そうやね~。で、光岡君と岩高さんの演奏が、ピアニストによってまたガラっと変わってね。だから私もこのアルバム本当に楽しみ。早く聴きたい!

※ゲストプレイヤー収録日に食堂にて田久保自撮り。
「ジャズピアニスト2人が一堂にお昼食べる図なんてなかなかないですよね!(田久保)」


 

 

 

  「メロディを大事にする」がモットー

田久保 では収録曲について伺わせてください。まずぜひプロデューサーにお伺いしたかったことなんですが、「一番苦労した曲」は!?

越山 苦労かあ……、う~ん……、(考えてから)……アレンジを試行錯誤して、という意味では、Have You Metかなあ。

田久保 Have You Met! あのイントロ、カッコよくて、私大好きです!

越山 そう、あのイントロ。リズムは割とすぐ「これで行こう」と思って……、でもコードが「ちょっと凝りすぎかな」と思ったり「いや、これじゃ普通すぎるかな」と思ったりして。最後まで迷ってたね。最初のリハーサルで(収録バージョンに)まとまった感じ。

田久保 ぴたっとハマりましたよね。

越山 あとはやっぱりバッハ。Andanteの、クラシックパートからジャズパートへの繋ぎね。この曲は上流階級の人が聴くジャズ、ってイメージにしたくて。でもサイズとか、コードをどこまで原曲に忠実にするかとか、どうしようかと悩んで……。これもリハーサルまで決めきれなかったよね。そしたらリハで光岡君が「ピーターソンのYou Look Good to Meみたいっすね」って言って。「それ!」って。

田久保 確かにあの一言で急に方向性が定まりましたね。

越山 あと今回、スタンダードあり、モナ・リザみたいなポップスに近いものもあり、バッハというクラシックありだけど、やっぱり……「メロディを大事にしよう」というのは常に思ってて。それは私の演奏のモットーでもある。「あくまでメロディ重視」。それは作曲家に対する敬意やね。

田久保 では、逆に一番楽しかった曲は?

越山 どれも全部楽しかったけど(笑)。

田久保 一番自信作とか……。

越山 「花は咲く」かな。あれは、私のピアノ良く聴いてくれてる人からしたら「越山サウンドやな」って感じるかもしれない。

田久保 そういえば、今回の「花は咲く」には「Remind(※)」に近い空気感というか、イメージする景色が似たものを感じました。

※越山満美子オリジナル曲。田久保のお気にいり。

越山 うん、あの雰囲気が好きなのかな。

田久保 ちょっとお伺いして良いか迷ったんですけど……。「花は咲く」は東日本震災の復興ソングですけど、やっぱり関西の人間としては阪神淡路大震災を思い出すところがあって。満美子さんの当時、お伺いしてもいいですか?

越山 もちろん。震災の時は明石にいたから……。家は壊れなかったけど。その後、見慣れた神戸の街が焼け野原になって。そこからまた復興していったのをずっと見てたなぁ。

 今回はアレンジにあたって「花は咲く」の原曲も何度も聴いて、改めて復興の曲なんやなって思って。明るいけど少し切ないあの曲の感じをどう表現しようか……、付けたしすぎず、引きすぎず。で、私らしいアレンジになったと思います。

田久保 岩高さんはさすがにこの曲で満美子さんが出したい音色を良く分かってらっしゃいましたよね。

越山 ミックスダウンで、「ピアノのリバーブもうちょっとあってもいいんちゃいます?」って一言でしょ(笑)。
 あれ、実は私も言おうかどうしようか迷っててん。「リバーブかけたいけどな~、でも、もうこのバランスでサウンドが完成してるしなあ……」ってちょっと遠慮してて。そうしたら岩高さんが先に言ってくれはったから、やっぱりもうバレてると思って(笑)

スタジオにて、PRESSTONE松田さんと共にミックス作業中。

 

 

 

  「強い女」と「オトコマエ」は良く言われます(笑)

タイトル曲、モナ・リザのアレンジ相談中。
「ハネケン満美子でお願いします」


田久保 私の中では今回のアルバムのテーマ、「JAZZ」×「女の運命」なんですよ。

越山 解説読んだけど、そういうアイデア、上手いよね!(笑)

田久保 コンセプト重視(笑)
  元々、色んな役柄を演じることができるというのは音楽の醍醐味だと思っているんです。今回は、自分のイメージする「カッコいい女」を色々演じてみようと思って。「クールな女」とか、「聖母性」とか、「過酷な運命でも自分で道を切り拓く女」とか。
 JAZZって、やっぱりカッコいいじゃないですか。

越山 なるほどね~、リハーサルでもキーワードを曲ごとに言うてたよね。

田久保 「Have You Met Miss Jones?」は「クール」なので、もし迷ったら「クール」に寄せてください、とか。「キサス・キサス・キサス」は「男女の口論」がテーマです! って伝えたら、光岡さんから「ソロ交換の最後はジャムでウワーッってしましょうか」とか、岩高さんから「ドラムが何かチキチキずっと入れてみるとか」ってアイデアが出たりして、内心「それそれ」ってニヤニヤしてました。

 で、なんですけど、基本的に私が憧れる女性像の共通点は「強い女性」なんですよね。自立していて、魅力的なんだけど、誰にも媚びず、それでいていつもにっこりしている。「芯の強い」美しい女性のイメージ、……あ、これ満美子さんじゃないかと!

越山 (爆笑) ……でも、「強い女」は確かによう言われるわ(笑)

田久保 私の第一印象はもうちょっとドライな人だったんですよね。何しろおキレイな方なので……。でも話してみるとすごく情があって。「クール」っていうより……、あのー、「オトコマエ」って言うか……。そうだ、「ハンサム・ウーマン」だ!

越山 オトコマエ(笑) いや全然言うてくれていいよ(笑)

ハンサム・ウーマン

越山 ピアノの音色でめっちゃこだわってるのが、女性らしさは残したい、っていうこと。「オトコマエ」って言って貰えるのもめちゃ嬉しいけどね。どっちも持っておきたいかな。

 今回のアルバムで言うと、「Work Song」では俊男さんみたいながっつりしたサウンドをめざして弾いていて。「花は咲く」は逆に……、おこがましい言い方やけど、私にしか出せないサウンドを創り出したいなあと思って、弾きました。

田久保 満美子さんとお会いする前、人からは「懐の深い、包み込むようなピアニストですよ」と紹介されたこともあります。

越山 それは嬉しいなあ。私、ソロも好きだけど、他の方と共演するのが好きで。そういう時には相手を「たてる」のがめちゃ好きやねん! 決して陰に隠れるんじゃなくて、どう自分が弾いたら相手がカッコよく聴こえるかなあ、とか。そういうのを考えながら弾くのが好き。

田久保 「たてる」。それはもしかして生徒さんに教えることにも通じていますか?

越山 通じる! 自分の価値観を押し付けるようなレッスンはしたくないねん。音楽の好みってその時にもよるし、人によって全然違うから。だから、「アドバイス」と、「知識」を使い分ける感じ。

 一回まず受け入れたい。そこから「アドバイス」して、実践で必要なこと、例えばもうライブとかセッションホストもやってるけど、イントロとかエンディングもっと色々したいなって場合には「知識」として方法を伝えるようにしてる、かな。

田久保 では、「ジャズヴァイオリン」ってどうでしたか?

越山 私が元々クラシックピアノをやっていてジャズに転向したから思うんやけど、ジャズって特殊じゃない? ノリとかタイム感とか、あと発音とか。それは「ジャズしか勉強していない時期」を経てないと難しいかなと思ってる。

 友妃ちゃんとは、初めて一緒にやった時からその「ジャズしてる」のを感じててん。で、生い立ちを聞いたらやっぱりお父さんのDNA(※)なんやなあと思って(笑)

※田久保等、田久保友妃の父。ジャズピアニスト。田久保友妃は6歳でヴァイオリンを初め、その2年後には父によりジャズバンドの営業に引っ張り出されてSpainを弾いていた。どんな感じのSpainかは1作目「Around the World」参照。

越山 だからその頃から友妃ちゃんのことは「ジャズヴァイオリン」やと思ってたけど、このレコーディング期間での進化が凄かったよね!

 ノリとか全然変わったし。半年前に二人で打ち合わせしてる時期には、8分音符がまだ軽い感じがあったんやけど……。今回の「Hash-a-Bye」のOKテイクを聴いて、「うわー、スイングしてる!」って思って

田久保 ありがとうございます。だとしたら、レコーディングという作業の中で満美子さんはじめ、光岡さん、岩高さん、それに髙橋さんという素晴らしいミュージシャンと共演することで身についたのかもしれません。
  このノリを忘れないために、私自身もこのCDをいっぱい聴き返そうと思います(笑)

 

 

 

  常にやりたいことがいっぱいある

田久保 満美子さんの今後の活動について伺いたいのですが。

越山 スタンダードを極めたい! って改めて思ってて。それで黒本(※)全部やるライブシリーズ(※)も企画して、岩高さんもメンバーの「越山満美子ピアノトリオ」もそのために結成したので、色々挑戦してみたいです!

※「ジャズ・スタンダード・バイブル」納浩一(著)

※越山満美子ピアノトリオ「黒本全部やるライブシリーズ」。明石POCHIにて、2020年4月より定期的に開催。

越山 それと、ちょうどこのレコーディングと同時期からアレンジのお仕事が増えてきて。歌ものをジャズ風にアレンジしたり、クラシックをジャズにアレンジしたり。どれもすごく楽しかった!

田久保 今後やってみたいレコーディングはどんな作品ですか?

越山 まず、黒本全部やるシリーズのレコーディング……。

田久保 黒本って何曲載ってましたっけ?

越山 2巻両方で500曲超えやね(笑)

田久保 じゃあ全曲収録でCD50枚組(笑)

越山 (笑) まあ、ライブシリーズからのセレクションとかね。

田久保 ライブシリーズの中で特に好評だった曲のベスト盤みたいな? 良いですね、スタンダードの新しいバイブル。ぜひやって欲しいです。

越山 それと、ソロピアノもやってみたいな。ジャズもだけど、ジャズ以外にもイーグルスとかカーペンターズとか、私の好きな曲だけを弾くねん♪

田久保 それは楽譜とセットで欲しいやつですね。

越山 それと、マミコネクションも録音したいなあ。……ライブもアレンジもやねんけど、常にやりたいことがいっぱいある(笑)

田久保 満美子さんって常にそうですよね。それをどんどん形にしているし、それでいて常に楽しそうで、尊敬するし憧れます!

 

 

 

  全力で楽しんで

田久保 今後、レコ発ライブでもお世話になります。お客さんやアルバムのリスナーへ向けて一言!

越山 まず、「全力で楽しんで!」かな! そして、「新しい田久保友妃ちゃん」を聴いて欲しいです!

田久保 ありがとうございます! という訳で、皆様レコ発ライブでお会いしましょう!

2020年3月2日

 

 

 

Live Information

【田久保&越山デュオ】2020年5月2020年05月02日(土)14時~
(舞子・武藤邸 1800円 要予約)
20200502

【レコ発ライブ】2020年06年20日(土)19時~
(島根・May24 ミュージックチャージ4000円)

【レコ発ライブ】2020年06月21日(日)19時~
(明石・POCHI ミュージックチャージ 3100円)

【越山満美子ピアノトリオ】黒本全部やるライブ
(明石・POCHI 2020年4月2日(木)より定期的に開催)
kurohon

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※購入は越山満美子さんまでお尋ねください※

 

 

 

 

田久保友妃セカンドアルバム「MONA LISA」

2020年3月18日発売 / 4-strings Records
2000円(+税)/ YTVS-0002
通販はこちらから(送料無料)

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